2013年3月1日金曜日

潮騒


最近の小説を読んでいると、なんとなく、疲れてきた。
それで、ついこの「潮騒 」に手を出してしまった。
最初にこの「潮騒 」に出会ったのは、小学生のとき。読んだのじゃなくて、母に読んでもらった!・・ちょい、恥ずかしい告白。。
世界文学全集を買ってくれて、僕は全然読まないもんだから、寝る前に、布団のなかで読んでくれました。
そのときは、あんまりお話に興味がなくて、数十ページごとに、出てくる挿絵を心待ちにしていたけどね。
でも宝島、太閤記なんか覚えています。もう一つ印象的に覚えているのが、この「潮騒」。
そんなきっかけと、どこかで「・・ギリシャ的・・アポロの・・精神・・」なんて、評価が頭のどこかに入ってて、「さわやかな」というか「端正」というか、そんな心持の小説を読みたくなったわけ。

50歳も過ぎると、周辺がドロドロした感覚でいっぱいで、なんか、いいです。
青い海と松。明るい太陽のある日本の風景。そこの登場する若々しく精悍な青年と、明るく、ちょっと芯のありそうな女性。そして純愛。
素直に、いい感じです。こんな時代、こんな年齢だからそう思えるのかな?
これを書き始めて・・厳しい母だったけど、どんな思いで「潮騒 」を読んでくれたんだろうって、ちょっと考えちゃった。

私はこれ以上この小説の魅力を表現する手立てを、持ちえていない。だから、本書末の解説を引用すると、
『三島が、では何故とくに古代ギリシャの物語という原型に心ひかれたかという話には、もう立ち入る暇は無いが、『潮騒』を書き出す前年にはギリシャを旅行して『アポロの杯』という本を書いている。
古典ギリシャへの憧れは、・・・・彼をギリシャの旅へと駆り立てた誘引であったというべきであったろうが、『潮騒 』が「アポロの杯」でくもうとしたギリシャの泉の賜であったということだけは疑えない。』
と、ギリシャの影響を指摘している。

アポロの杯 」は所蔵していないが、「三島由紀夫の美学講座 」に「アポロの杯 」の一部が掲載されていた。

『廃墟について
アテネ - 「アポロの杯 」より
 私は自分の筆が踊るに任せよう。私は今日ついにアクロポリスを見た!パルテノンを見た!ゼウスの神殿を見た!巴里で経済的苦境に置かれ、・・・私の夢にしばしば現われた。こうゆう事情に免じて、しばらくの間、私の筆が踊るのをゆるしてもらいたい。
 空の絶妙の青さは廃墟にとって必須のものである。・・・』

こんな感じで、アテネを絶賛!!。「絶妙の青さ」と白い大理石の世界から、廃墟までを夢想する。
この文章の後段、このアテネの美しさは、廃墟であることと表裏一体であることに論は移り、「パルテノン-竜安寺」「左右対称の美-非均斉の美」「美の不死-死そのものの不死」というように「希臘(ギリシャ)と日本」を対比的に分析している。
このような論理の展開は、自決する三島の人生をも想像してしまうのだが・・。

建築的話なら、ル・コルビジェの古典的建築から近代建築の宣言書とされる「建築をめざして 」で、原初的かたちとされたパルテノンが礼賛され、近代建築が批判にさらされる時代になると、磯崎新が原爆後の廃墟を原風景と主張し、彼のポストモダニズムの先陣を切ったつくばセンタービルのルドゥー・ミケランジェロのモチーフの背後に廃墟のイメージを隠しこんだ、そのような流れを髣髴とさせる。

再び話を上の「アポロの杯 」に戻し、三島は、
「しかもなお原型のままのそれらを見るときの感動を想像してみて、廃墟にまさるように思われる」といいながら、「(実はこの文は続いていて)のは、それだけの理由ではない。希臘人の考え出した美の方法は、生を再編成することである。・・・廃墟は、・・不死の美を、希臘人自身のこの絆しめから開放したのだ。」として、またも廃墟論へ話を戻している。
しかし、ここで明らかなのは、『ギリシャ・パルテノンの原型の廃墟を越える感動』を認めていることである。

この「潮騒 」は、まさに『廃墟を越える原型の感動』の文学なのではなかろうか。
三島の美の論理どおり、「廃墟」「死そのものの不死」に彼の作品は修練し、彼の人生も彼の論理どおりに、自決によって修練してしまった。
したがって、彼の論理と人生がいかに完全に修練し終わろうとも、その論理である「廃墟」「死そのものの不死」を超える『原型の感動』の「潮騒 」は、彼の意に反してというべきか、輝いているように思う。
さらに、青松白砂と暖かな漁村の風景が、日本的郷愁を加え、より鮮やかに、直截的に、われわれに訴えかけているのではなかろうか。

ああー、つい、また面倒な、言い回しになってしまった。
単純に、「さわやかな青春」思い起こす清涼剤・・それで、十分かも。心、洗われた感じです。

(読了)


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